男らしさとジャニーズ(後編)

 前編をお読みでない方は↓こちらをお読みください。
t.co

(ジャニーズ文化やジェンダー学について詳しい方は前編を読まなくてもある程度後編の内容は理解できると思います)

やっと本題まできました。
前編では書いてる筆者自身が落ち込むくらい絶望的な内容になってしまいましたが、
後編ではもう少し希望のある話をしたいと思います。


※注意
・このブログはできる限り正確なソースに基づいて書くように心がけていますが、明確なソースを提示できないものも多く、主にネット上の情報によって構成されています。ご容赦ください。

・ジャニヲタ歴4年の新参者であるため、特に10年以上前のジャニーズについての記述は正確性に欠けるものである場合があります。もし間違いがありましたら、コメントいただけると幸いです。

・筆者本人はジェンダー学の専門家でも、アイドルの専門家でもありません。


3.「男らしさ」と「ジャニーズ」

 「男らしさ」とは一体何なのでしょうか?
様々な書籍やWeb記事を読んで、個人的には答えが出ました。


「男らしさ」とは、権力を勝ち獲りたいものが身につける言動や概念のことです。


権力に吸い寄せられ、権力を欲するものがまるで武装するかのように身につける振る舞いが「男らしさ」です。
これには性別関係ありません。
(「男らしさ」を身につけた女性のことを「名誉男性」と揶揄されることもありますね)

あなたの上司があなたに対してハラスメントをするのも、
あなたの先輩が仲間内で、特にマイノリティに対して乱暴な言動を繰り返すのも、
あなたの親兄弟があなたの話を遮り論破してくるのも、
全部支配欲や権力欲に踊らされ、「男らしさ」を求めた結果なのです。


 一方で、「ジャニーズらしさ」とは一体何でしょうか?
これも個人的には答えが出ています。


「ジャニーズらしさ」とは、男らしさとは対極に位置するもの、つまり権力から最も遠い場所にいてくれるもののことを指します。


「ジャニーズ」と聞くとあなたは何を思い浮かべますか?
従来のジャニーズ像としては、少し背の低い男性、顔つきが柔和で可愛らしい男性を思い浮かべませんか?

そのあなたが想像した従来のジャニーズ像とは、生前のジャニー喜多川氏が求めたアイドル像でもありました。
「男らしさ」の基準はその時の社会や環境によって異なります。
当時のマッチョで力強い男性像から最も離れたアイドルをジャニー喜多川氏は求めました。

しかし、今のジャニーズタレントには身長が高い人やマッチョな人といった、従来の男らしさに当てはまる方も多くいらっしゃいます。
これは、男らしさの基準が時代の変化によって曖昧になってきたというのもありますが、事務所の権力者がジュリー氏や滝沢氏に代わったことにより、事務所が求めるアイドル像が変化してきたという側面もあるでしょう。

それでもジャニー喜多川氏や滝沢氏らが求めたアイドル像には共通点があります。
それは、「従順さ」です。


「ジャニーズらしさ」とは、権力に対する従順さであるとも言いかえることができるでしょう。


究極の男社会であるジャニーズ事務所にとって、その組織を維持するためには、
権力者による盤石な支配と、権力者に逆らわない従順な手下が必要です。

(ジャニーズ内で従順さが求められている証左になるかわかりませんが)
ジャにのチャンネルで公開された動画で、
「もし自分でYou Tubeチャンネルをやる場合どのジャニーズを入れたいか」というお題に対し、嵐の二宮和也氏はSnow Manの岩本照氏を指名しました。
その理由は「滝沢氏とのやりとりをみて忠誠心がすごいから」とおっしゃっていました。

youtu.be

1:50あたりから

(こういう嗅覚の鋭さが流石二宮氏と思いましたし、同時に恐怖も感じました。推しに近づいてほしくないですね。)


ジャニーズタレントが事務所内で出世するということは、
後輩たちを支配する力があり、
尚且目上の者には従順さをみせるといった二面性が絶対に必要です。
その二面性を持って出世したのが滝沢秀明氏というわけです。

(もちろん他のアイドル事務所や芸能事務所、一般的な企業にもこういった側面はありますが、
男所帯であるジャニーズ事務所は特にこの特性が強く出ています。)


 また、これはあくまで私の憶測でしかないのですが、
ジャニーズタレントがジャニーズ事務所内で出世する以外の目的で従来のマッチョイズム的な「男らしさ」を身に付けたいと思う動機はあると思っています。

それは世間から(特に男性から)舐められないためです。

ジャニーズタレントは、
背が小さい・可愛らしい容姿というイメージが定着していること、
また女子どもがハマるアイドルという職業は価値が低いというホモソーシャル的な偏見から、
「自分たちは世間から舐められている」と思っている方が多いと私はみています。


その証拠に、ダイノジさんが自身のYouTubeチャンネルにて、
嵐の二宮氏がドキュメンタリーで、

「どうせ、ジャニーズだって馬鹿にしてんでしょ?」
「だから面白いんじゃないですか」

と語ったことを紹介されていました。

youtu.be

4:25あたりから

(そのドキュメンタリーが何なのか調べても分からなかったので、分かる方はコメントください)

あくまで二宮氏の見解ではありますが、
ジャニーズタレントの中に少なからず
「自分たちは舐められてる、馬鹿にされてる」
という意識が存在していると推測できます。

その「舐められたくない」という気持ちからどう行動するのかは人によるでしょう。
例えば滝沢氏の場合、その気持ちが腹筋太鼓*1の演出につながっていると私はみています。


 ジャニーズ事務所内でいかに「男らしさ」が根深く関係しているのか、ご理解いただけましたでしょうか。
事務所から求められる「従順さ」と自身の「男らしさ」という価値観のギャップに苦しむジャニーズタレントは実は多いのではないかと私は推測しています。

4.「男らしさ」を脱いだ、その先に

 人気少年漫画Dr.STONEの作中の台詞でこんなものがありました。


「男を褒める男は、ホモか策士(タヌキ)かどっちかだ」


皆さんはどう思いますか?

そもそも「褒める」行為とその人の性指向にはなんら関係がないですし、差別用語をわざわざ用いて表現していること自体悪意がありますよね。

また、「褒める」行為の裏に策士的な意図を感じるということは、その発想の背景に「男は他人を利用してでも競争に勝とうとするものだ」というジェンダー観があるのでしょう。

この台詞が普通に週刊少年ジャンプに載っていたことを考えると、
男性同士が褒め合ったり仲良くしたりする姿に嫌悪感を抱く人が一定数存在することが分かります。


しかし、男性同士が、他人を排除することなく(ホモソーシャル的な意味合いではなく)、連帯し互いを尊重することが、
「男らしさ」という価値観から脱却する唯一の手段だ
と私は思います。


そもそもなぜ「男らしさ」という価値観から脱却しなければならないのかといいますと、
それは、自分と他人を傷つけるからです。

私が最も尊敬するコラムニストのお一人、アルテイシアさんが書かれた記事を引用します。

「男はこれぐらいで傷つくな」「男は強くあるべき」と呪いをかけられて育つと、子どもは自分の傷つきや苦しみを認められなくなる。
感情を抑え込むようになり、感情を言葉にできなくなってしまう。

自分で自分の感情がわからないと、他人の感情もわからない。自分の感情を言語化できないと、他人と理解共感しあい、深いつながりを築くことも難しい。

また自分の弱さを認められないと、他人に助けを求められなくなる。弱さを否定してウィークネスフォビア(弱さ嫌悪)に陥ると、他人に優しくできなくなる。

www.gentosha.jp


前編でお話したようなハラスメントの連鎖を断ち切るには、「男らしさ」という価値観から脱却し、互いを尊重し合える関係を築くこと以外道はないのです。


 では、最近のジャニーズ(特に若手)は、「男らしさ」から脱却し、互いを尊重し合える関係を築けているのでしょうか。

個人的な見解にはなりますが、完全な「男らしさ」からの脱却とまでは言えなくても、いい流れはきていると思っています。

昨今のジャニーズタレントは、各媒体で互いのいいところを褒め合ったり、互いの功績を讃えたり、過度なイジり合いをやめたりといい方向に変化してきていると私の観測範囲では感じています。

それは、勿論時代の変化によって、各々のジェンダー観が変化してきているからということもありますが、
SNSの解禁によって、ジャニーズがより多くの人の目につくようになり、「ジャニヲタ」と呼ばれる一部のヲタクたちのだけのものではなくなってきたからということもあると思います。

特にYouTube解禁によって、自分たちの作品がファン以外の一般人(特に歌やダンスのプロ)の目に止まることで、自分たちのパフォーマンスは正当に評価されているという実感がもてるのかもしれません。

(個人的には、見た目の華やかさや愛嬌の良さなども立派なアイドルを構成する要素だとは思いますが)
外見の良さだけでなく、中身(パフォーマンス)をファン以外の人に評価されることで、「男らしさ」に頼らなくても自分に自信が持てることに繋がっているのではないでしょうか。


 ここからは、私の希望的な予測になりますが、
アイドルがステレオタイプ的なジェンダー観を手放すことで、「男らしさ」の呪縛から開放される人も多く出てくるのではないかと考えています。

アイドルとは、その時代の象徴です。
アイドルの姿勢や言動に影響されるのは、アイドルオタクだけではないと思います。

(アイドルだけに完璧な人間像を求めるのも違うと思いますが)
男性アイドルが「男らしさ」から解き放たれることで救われる人はきっと私だけではないはずです。

アイドルをプロデュースしている方々には、この点をよく考えてほしいと思っています。
権力には責任が伴います。
ジャニーズ事務所内でも積極的に性教育を行ってほしいと願いますが、事務所のトップにそんな考えはおそらく1ミリもないことは前編でお話しましたので、
私達ファン側が「これはおかしいぞ」と思ったら声をあげるのも大切かなと思います。
「ファンは無力」という言説も世の中にはありますが、私はそんなことはないと思っていて、
特にSNS戦略を始めてから、運営側はファンの反応をかなり気にしていると思います。
疑問に思ったことは、すぐに問い合わせるということを私も心がけたいと思います。


 ジャニーズ沼にハマってから約4年、正直

 「こんな事務所に金を落としていていいのか…」

と葛藤し続けた日々でした。
それでもジャニヲタを続けていこうと思えたのは、ファンに対して真摯に向き合う推したちの姿に感銘を受けたからです。

ジャニーズ事務所は、内輪感が強く特殊で歪な組織だと思いますが、
推したちにはなんとか誰の人権を侵すことなく、心身共に健やかに過ごしてほしいと願うばかりです。
そのために、自分のできること(ブログやSNSでの発信)は続けていこうと思います。

ここまでお読みいただきありがとうございました。
皆さんの健やかな推しライフを心から祈っています。


【参考文献】
・「男子が10代のうちに考えておきたいこと」
田中俊之著 岩波ジュニア新書 2019/7/19初版

・「これからの男の子たちへ: 「男らしさ」から自由になるためのレッスン」
太田啓子著 大月書店 2020/8/24初版

・「現代思想2019年2月号 特集=「男性学」の現在――〈男〉というジェンダーのゆくえ」
青土社 2019/1/28初版


・「男らしさの呪縛」って? みんなで考える#国際男性デー
Yahoo!ニュース 2021/11/19掲載

news.yahoo.co.jp

・必要悪?「男らしさ」が猛威を振るう深いワケ
東洋経済オンライン 2018/09/10掲載

toyokeizai.net

・「男の子はどう生きるか?」JJからボーイズへの遺言 
幻冬舎プラス 2021/10/01掲載

www.gentosha.jp

*1:舞台「滝沢歌舞伎」で行われる演目。腹筋の種目で言うところのシットアップの状態で太鼓を叩く。滝沢氏考案。